「お久しぶりですね。ブロントさん。」
修道女が剣士の風格をした男にぺこりとお辞儀をする。
ここは木々に囲まれた古びた教会。
修道女であるテミは、魔王討伐軍として従軍した後、この木々に囲まれた教会で静かに暮らしている。
本人曰く、「季節感にあふれる静かな場所で神の側にいたい」から、らしい。
剣士の風格をした男はブロント、魔王討伐軍の隊長を務めた「伝説の男」である。
現在は人目を避け、討伐軍と交わりも無く諸国を旅している。
そんなブロントが、わざわざテミの教会のところに来た。
それも、懐かしいい人と話がしたいという彼らしくない理由からだった。
とりあえずテミはブロントを庭のテラスに案内し、紅茶とお茶菓子を用意した。
「人と話がしたいってブロントさんらしくないですね。」
2人が座って最初にテミは言った。
ブロントは、討伐軍のリーダーのときも、常に無口であった。
ブロントは少しため息をつき、少し苦笑いをする。
「俺だって人間だよ。・・・伝説の男なんて言われているけどさ・・・」
木々に止まっている小鳥達がブロントを笑うようにさえずる。
そんなものなのであろう。
巷では伝説の男といわれている人間も、ちょっとひっくり返してみればただの人間なのだ。
テミは、淹れたばかりの紅茶を啜り、自分で納得した。
「やっぱりブロントさんも人間ですね。」
テミの口からクスクスと笑いがこぼれた。
ブロントは「人間じゃなければなんだよ」と言いたげな目でテミを見た。
その後、ブロントとテミはいろんなことを話した。
教会のこと、旅のこと、出会った人々のこと・・・
とりとめのない話ばかりだった。
それでも、彼らには楽しい時間だったのは言うまでも無いだろう。
そして、話題が尽きかけたころだった。
「そういえばブルースさんって今何をしているんですかね?」
その言葉を最初に言ったのはテミだった。
なぜそんな唐突に、とほかの人が見たら思うかもしれない。
しかし、何ヶ月も寝食を共にし、ひとつの目的を果たしたのだ。
それは、彼らには大きなものだった。
突然頭の中にてメンバーの顔が浮かび、そして消えていく。
そのたびにブロントたちは「あいつらは今頃何をしているのだろう」と思うのである。
ブロントたちは、たとえ遠く離れていようとも切り離せない関係だった。
「あいつ、リンと一緒にあの村に行ったんじゃなかったんだっけ。」
ブロントは別れの時を思い出して言った。
リンは山あいにある魔王軍に攻撃されていた村で、たった一人で戦っていた少女である。
魔王軍を撃退した後、ブロントがその卓越した戦闘能力を買ってスカウトし、共に魔王を撃退した。
そしてブルースは、たくさんの女をナンパしてきたのにもかかわらず、そんな彼女に一目ぼれした。
そして、魔王を撃退する間、何度もアタックに失敗して殴られながらも、とうとう2人はカップルになった。
そして、魔王討伐後、彼らは村を復興するために村に行った。
「きっと村も復興して、幸せな生活をしているんでしょ」
アレから5ヶ月。
きっと村も復興し、夫婦として仲むつまじく過ごしているのだろう。
「・・・おんなじ女好きとして、ジルバさんがいましたね」
「一人ずつ列挙していくか。あいつは・・・・お前にフラれて自分探しの旅に出たはずだ。」
ジルバ。
彼は討伐軍の中で唯一西洋鎧を着て、敵陣に突っ込み、ひるんだ敵らを槍一本でなぎ倒す猛者だ。
同時に感情の起伏が激しい男でもあった。
いや、その姿は「男」では無く「漢」といったほうが正しいだろう。
魔王を討伐した後、ジルバはテミにアタックをしたが、彼女は拒否し、ジルバは「自分探しの旅に出る」といって一人で旅立った。
「いいやつだったと思うけどね、ジルバ。どうして拒否したのさ」
ブロントは聞いた。
なぜ断ったのだろうか。
少なくともジルバは悪い奴ではない。
「私は、神に仕える身ですから、純潔を守らなくてはなりません。それだけです。」
テミはちょっと固い口調で言った。
あぁ、そうだったか。
ブロントは、紅茶をすすりながら、納得する。
哀れ、ジルバ。
そうしか言いようが無い。
「ルファは?」
ジルバに内心ご愁傷様、と手をあわせつつ、仲間をどんどん列挙する。
ルファ、エルフ、という妖精を束ねる若きリーダーである。
ジャングルを巡って、ミドリ率いるアマゾネスと抗争をしていたところで討伐軍が介入し、ちょっと交渉して2人を仲間に組み込んだ。
「ジャングルに戻りましたね。ミドリと一緒に」
テミが答える。
結局また抗争を続けるのだろうか。
最終的には仲がいい感じがしたからこのまま一緒に暮らす、という選択肢もあるような気がした。
いや、ブロントにとってはそうであってほしかった。
「まぁ抗争については私達には関係ないことでしょうけど・・・ね。」
テミがそんなブロントの心を察するようにため息をつく。
考えてみればそうなのだ。
あのジャングルの争いなど、元々俺らが介入する必要が無かったのだ。
例えジャングルが双方の血で真っ赤になろうとも、俺らには関係ないことなのだ。
そう気づいたとき、ブロントは相変わらずの首突っ込み癖を恥じた。
相変わらずだな、と思い、ため息が出てしまった。
「後の3人が分からないんですよね・・・・」
テミが首を傾げつつ言う。
一人はティンク。
古代遺跡で魔王軍に捕らえられているところをブロントが救出した。
討伐軍に入った後も、回復役としてテミをほう助した。
またメテオを使った狙撃はブルースの弓と同じくらいの命中率を誇っていた。
もう一人はクロウ。
コロシアムでブロントと一騎打ちしたパラディン姿の傭兵である。
一騎打ちで辛うじて勝利したブロントは彼をスカウト。
大枚の金を払って以後、ブロント、ジルバと共にメインのアタッカーとして活躍した。
最後にマゼンダ。
生粋の魔法使いである。違うところといえばブロント並に純粋で正義感が強いところか。
炎攻撃を得意とするも、基本はどんな魔法も使えた。
彼女もたびたび前線でアタッカーを担っていたりした。
この3人は何も言わず、去っていった。
そして、なんら連絡もつかず、音信不通の状態である。
「あぁ、そういえば」
ブロントは以前クロウとマゼンダを目にしたときがあったことを思い出した。
旅行先の町で偶然見かけたのだ。
手を振ったら、クロウは俺のことが分からなかったのか、何も反応が無かった。
ただ、側にいたマゼンダは俺に気づいたのか、軽く会釈して去っていった。
「クロウとマゼンダは、おそらく傭兵としてくらしているのだろう・・・」
その後気になって、傭兵の仲介人に聞いてみると、魔術を専門とする傭兵が一人増えた、と話してくれた。
クロウはどう思っているのかは定かではないが、少なくともマゼンダはクロウのことが好きだった。
おそらくクロウと一緒にいたいから、傭兵になったのだろう。
それがはたしていいことなのかは分からない。
ただ、それが彼女の愛の貫き方なのだろう。
それは、幸なのか、不幸なのかは自分が口出しすべきところではない。
ブロントはそう思い、それ以上のことは言わなかった。
「・・・・クロウ追ったのですね。それが、マゼンダにとって幸せだったのでしょう。」
テミはそんなブロントの心を察した。
あの2人はまたどこか戦火を交えるところに飛んでいく。
戦場で自分を見出すことになるのだ。
それは、彼らには幸なのか、不幸なのか。
それは彼ら自身にしか分からない答えである。
「・・・・ティンクは、知らん。」
重い話になったので、少し話題をそらした。
ティンクはおそらくどこかに行ったのだろう。
それは人間には分からないどこかである。
あくまで彼女は妖精である。
遠く、どこまでも遠くにいったのだろう。
「飛べる、というのはすごいですね。どこまでも、遠く行けるのですから。」
ブロントが話題をそらした意味を察しつつ、テミは答える。
どこまでも飛んでいきたい、
そんな夢がテミの心にあった。
空を見上げ、腕を伸ばす。
子供のころに見てきた空へ続く梯子は、大人になって成長した彼女の腕でさえつかめるところには無い。
しかし、ティンクには掴むことができる。
テミは、そんなティンクが少しうらやましく思ってきた。
「遠く、か・・・」
ブロントはよいしょ、と立ち上がった。
テーブルを少し整理し、軽く伸びをする。
「今日は楽しかったよ、ありがとう。」
ブロントがテミに軽く一礼し、教会を後にする。
彼もまた、遠くに行く人なのだ。
それは誰が決めたわけでもない。
彼自身が決めたことなのだ。
テミは行こうとするブロントの背中を見て、そう思う。
「また、お会いできる日まで。」
テミが小さく返した。
日はすでに西に傾いている。
木々にいた小鳥達も、暗くなったのに気づいてか、どこかへ飛んでいった。
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あとがき
しげる様からのリクエスト。
テンミリオンのメンバーのその後、です。
ジルバ哀れ(笑)
もうここで俺のジャスティスなカップルができちゃってますね(汗
傭兵なマゼンダなんて普通は考えられませんよね(ぁ
リクエストから何日も過ぎて申し訳ございません。
でもそれなりに自分で満足いってる作品です。