「ぜーはー」
満天の星空の下、2人の息切れ音が響いている。
魔王とガーゴは、もはや息切れ状態だった。
痺れて動きにくい体で1時間近く追いかけられていたから当然といったら当然であるが。

「まともな奴がいませんね・・・・ゴフッ・・・・魔王様」
ガーゴは息切れしつつ、かつ咽ながら言う。
いや、1時間全力疾走し続けて咽ただけですむのならむしろいい方なのかもしれない。
ガーゴは言い切った後、四つんばいになって咳き込んだ。

「いや・・・・次はきっと大丈夫だ」
魔王はぜーはー言いながら言った。
ガーゴにはこの発言は信じられなかった。
アレだけひどい目にあっているのにまだやる気なのか。
その馬鹿正直さ、いや学習能力のなさに一瞬ガーゴは絶句した。

「・・・・失礼ながら、どうしてそういいきれるんですか、魔王様?」
できれば、このまま撤退したい。
まぁ、魔王に別の策があるのなら話は別であるが。
これがガーゴの本音であった。
できれば、ここで考え直してもらいたかった。

「追い掛け回されたりぼろぼろにされたりしてまでけなげに頑張るサンタクロースに、誰もやさしくしないはずが無い・・・!」

あぁ、ついに狂ったか
ガーゴは絶望した。
もうだめだ
うん、もういいや。
もうこうなったら死ぬまでこの狂人と付き合ってやる。
もはやガーゴはやけくそだった。

魔王は次のテントに向かい、中に入った。

「よぉ、サンタ!!メリークリスマス!!」
「・・・と後ろのトナカイもメリークリスマス!!」
中にいたのは、討伐軍の主将であるブロントと魔女のマゼンダであった。
彼らの武器も今は装備していなく、2人を歓迎しているムードである。
2人は今度こそ、という感じでほっとした。

「やぁ・・・・やっと暖かく出迎えてもらえた。」
魔王はつかれきった声で、袋を置き、少し肩を震わせた。
いままでが物凄く酷かったせいか、この歓迎ムードはある種の感動モノだった。

「そうだろうそうだろう、大変だったもんな」
ブロントがうんうん、と頷き魔王の肩をポンッ、と叩く。
ガーゴもこの光景には涙が出そうになった。
討伐軍の主将が近くにいるはずなのに、殺す気には到底なることができなかった。

「荷物はおいてゆっくりしていきなさいね。せっかく変装してきてまでこっちに来てくれたんだもん、それなりの歓迎はするわよ」
マゼンダはそういってクッキーと暖かい紅茶を2人に差し出した。
しかし、ガーゴはマゼンダの発言に、耳をピクッとさせた。
変装してきてまで・・・?

・・・・バレているッ!?

ガーゴはブロントらがすでに自分たちを見抜いていることに気づいた。
ばれていることに、ガーゴは恐怖心を覚えた。
隣の魔王は、うれしそうに紅茶にありつこうとしている。

「魔王様、こいつら、見抜いてます・・・・!」
ガーゴは魔王の耳元でささやいた。
その瞬間、紅茶のカップを持ち上げようとした魔王の手が止まり、魔王の顔はさらに青くなった。
魔王は、なんとなくこの後の展開が見通せた。
少なくとも何かが起きる。それも、絶対悪いことが。

「魔王様、逃げましょう!」
ガーゴは魔王に再度、囁いた。
魔王は袋をまた持ち、全速力で逃げた。

「うぅっ・・・せっかくよい子に出会えたと思ったのに・・・」
魔王は悲しげに、呟いた。


2人が消えた後、ブロントらはポカンとしていた。

「何だあいつら・・・・別に攻撃する気はなかったのに」
ブロントは呟いた。
今日はクリスマス・イブである。
少なくとも、クリスマスを祝う気持ちはみんな同じ、とブロントは考えていた。

「早合点じゃない?せっかく歓迎したのに・・・・」
マゼンダが残念そうに、ブロントに言った。
2人のために淹れた紅茶は、もう冷めていた。




「・・・・もう、なんなんだ、この軍は・・・・」
ブロント達のテントから少し離れた後、魔王は愚痴を言った。
そりゃそうだろう。
ティンクには寝言でメテオを近くに落とされて、
テミには2時間近く説法を聞かされ、
リンには毒を盛られ、
ルファとミドリには食い物として認識されて、
ブロントとマゼンダには正体がバレてしまったのだ。

いや、そう考えてみると今命に別状がないというのはある意味奇跡かもしれない。

「折角サンタクロースがプレゼントを届けてやろうと思えば・・・」
まるで自分が本当にサンタになったみたいに、魔王がまた愚痴を言う。
結局プレゼントは誰にもあげていないのだ。
みんなあげようとする所で、絶対何か悪いことが起こる。
毎回それの繰り返しである。
魔王はもうため息をつく気力すらなかった。

「誰だ!!」
そんな時、2人の耳に張りのある声が届いた。
しまった。
下手に見つかってしまったか。
ガーゴは暗闇に慣れた目で声の元を調べる。

「なるほどお前がサンタクロースだな。どんな敵をも倒すと言う」
ガーゴが注意深くあたりを見回している間に、声の正体が現れた。
声の正体を見たとき、ガーゴはぞっとした。
銀髪で赤い目の青年。片手には杖、腰には剣。
そう、ガーゴが傭兵としてスカウトしたパラディン、クロウである。
コロシアムの戦況報告で、クロウが行方をくらましたとは聞いているが、まさかここにいたとは。
ガーゴは予想外のことに、ただただ呆然とした。

「・・・・そうなのか?」
呆然としたガーゴの隣で、魔王は呟く。
一通りサンタのことは調べてあるが、この情報は初めてだった。
いったいクロウはどんなところから情報を仕入れたのだろうか。

「ずっとお前が来るのを待っていた」
片手にある杖を地面に置き、チャキ、とクロウが剣を両手で構える。
そして、一歩足を出して剣先を魔王らに向ける
クロウの赤い目からただならぬ闘志なるものを魔王は感じないはずは無かった。

「おい、・・・・あいつ戦う気満々だぞ!どうする!?」
魔王は突然の展開についていけなく、焦った。
何しろいつも装備している炎の書ですら持っていないのだ。
すなわち魔王に攻撃手段は無い。

「俺の願いはお前と戦うこと!!さもなくば俺に斬られろ!!いざ尋常に、勝負!!」
魔王の言葉を無視するように、クロウは剣先に力を込めて、突っ込んだ。
目標は、剣先の延長線上にいる魔王。
獲物を狩る隼のように、クロウはまっすぐに駆けた。

「・・・クッ!」
魔王は剣先が体に届く直前、簡単な結界を展開した。
クロウは結界におされ、一歩退く。

「魔王様、プライドもあるかもしれませんが逃げますよ!」
魔王の突然のピンチに、ガーゴは黙ってみていられなかった。
ガーゴは呆然とした心情を吹っ切り、時間稼ぎ用に煙幕を展開する。
クロウが一歩退いた瞬間に展開したので、クロウは魔王の位置を見逃した。
これに乗じ、2人はその場から逃げた。

「・・・ッ! 待て!!逃げるな卑怯者!!」
煙幕が晴れたときにはクロウの視界には、魔王は無かった。

ただ、2人の足跡までは消すことができなかった。
2人の足跡の方向は一致しており、その方角に逃げていることが明らかだった。

「・・・・そこかっ!!」
クロウは足跡を追って、走った。




「ぐっ・・・・」
逃げている途中、魔王が呻いた。
痺れ薬が本格的に効いてきたのだ。
さらに痛み出す体のありとあらゆる関節。
魔王は、体を引き摺るだけでも精一杯だった。

「もう撤退しましょう魔王様。このままじゃ体が持ちません」
ガーゴが2回目の撤退の進言をする。
強がっている魔王もさすがに限界だった。
魔王が首を縦に振るとガーゴは呻いている魔王をおんぶした。
ちなみにガーゴの方はもう大丈夫である。

おんぶしてまもなく、何人かの声がした。
声の主達は、それぞれ方向が違うとはいえ確実にこっちに向かっている。

「見つけたわよクッキー代!!」
声の主達の中で、まずリンが虎の爪を装備してこっちに向かってくる。
目が明らかに追いはぎの目である。

「肉ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
次に現れたのミドリ。
彼女は斧を振り回してこっちに向かってくる。
彼女の目も狩りをする猛獣の目をしている。
目的が違うとはいえ、リン並に危険である。

「絶対に逃がさん、一年も待つのは面倒だからな!!」
最後にクロウが現れた。
彼もまた、ミスリルの剣の剣先をこっちに向け、先ほどと同様、隼のごとく突進してくる。
彼の闘志に燃えた赤い瞳は、ガーゴに止めを刺すのに十分だった。

「まずい・・・・囲まれただと・・・・」
ガーゴはこのことに、ただただ呆然とするしかなかった。
ガーゴが呆然としている中、声の主達は3方向から2人に向かって突っ込んでくる。
飛ぼうとしても、魔王をおぶっているため跳躍力が足りない。
ガーゴはどうしようも無かった。



「zzz・・・・・め〜てお!・・・・・」




ドォン!




声の主達がいよいよ近づく瞬間、ガーゴの付近で隕石が落ちた。
轟く落下音とともに、巻き起こる爆風と煙。

「!?・・・・・しめた!!」
ガーゴはなにが起こったか分からぬまま、爆風を利用して空を駆けた。
魔王を乗せたガーゴはどんどん地面から離れていった。













「はぁ〜」
魔王の城。
寝室に戻りながら、痺れが取れた魔王はため息をついた。
結局うまい具合に爆風が跳躍力に使え、空から逃げることができた。
結局怯えて、逃げて、死にかけてと、いったい何かいいことがあったのだろうか。
しかも窮地を救ったのはティンクのあの寝言。
今考えれば、こんな策略が馬鹿馬鹿しくてならなかった。

「まぁまぁ、命が助かっただけでも良しとしましょうよ」
察したのか、ガーゴが慰める。
まぁこんな無茶な計略をして、生き延びていること自体がいいことなのかもしれない。
それでも、魔王にはやりきれない気持ちが残った。

そうこうしているうちに魔王は自室にはいった。

「それでは、ゆっくりお休みなさいませ。」
ガーゴは魔王を寝室までついていくと、ガーゴは静かに言った。
もう時間は次の日に回っている。
日が暮れて少ししたところで出発したので、随分と長い時間がたった。
長かったような短かったような・・・・
短くガーゴはため息をつき、寝室を後にしようとした

「おぉぉ・・・!」
そのときである。
魔王が歓喜の声を震わせた。
魔王が歓喜の声をあげるなど、側近のガーゴですら見たことが無い

「いったいなにが起こったのですか?」
ガーゴは魔王の寝室に入り、尋ねる。

「私の机の上に私の好物のアップルパイが・・・」
なるほど、
豪華なベットのそばの小さなテーブルに、カードと一緒に丸いアップルパイがひとつ置いてある。
魔王はアップルパイが大好きであるから、この贈り物に魔王が喜ばないはずが無い。

「カードまでありますね」
ガーゴがカードを手に取り、中を見る。


ちゃんと良い子にしていたかな?
それじゃぁメリークリスマス!!

       (本物の)サンタ


なんだかなぁ、と文面を読んでガーゴは苦笑する。
良い子は明らかに嫌味だし、本物の、とつけているところで明らかに討伐軍の誰かがやったに違いない。

(・・・・まぁクリスマスだからいいか。)
ガーゴはため息をつく。
魔王の喜ぶ姿を見て、まぁクリスマスだから、と思って許してしまう自分がいた。

「・・・・ガーゴ、城のものは全員おきているのか?」
魔王はガーゴに尋ねる。
討伐軍が雪原に入ってから、24時間厳戒態勢である。
おそらくみんな寝ていない。

「はい。それがどうかしましたか?」
ガーゴは逆に尋ねた。
今度は何をやらかすのだろう。
さっきのことがあって、ガーゴは物凄くいやな予感がした。

「城のものを全員呼べ、パーティーを行う!これでみなのものの結束力を計るぞ!」
魔王は宣言するように大声を出す。
精一杯クリスマスを楽しんでやる、といいたいばかりに。

「!!・・・・・了解しました!」
ガーゴは仰天しながらも、思いが通じたのか少し笑い、魔王の寝室を後にした。



「クリスマス、か・・・・」
急いで城の人間を呼ぶガーゴと、8分の1サイズに切ったアップルパイを頬張る魔王の気持ちは同じだった。

「人間がする行事とはいえ、まぁ悪くはないな・・・・」
クリスマスを祝い、楽しむ気持ちは変わらない。
それが人間だろうとも、なかろうと。
たとえどんなに時間が過ぎ去ろうとも・・・・・



魔王の城を後にし、青髪の奇妙なサンタが満天の星空を舞う。



「Merry Christmas!!」
サンタはそういって、星空に紛れ込んだ。


(Fin)



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後書き

テンミリオンクリスマス紙芝居企画で脚本をSSアレンジしました。
で、コレですよ。
最初はいかにも描写が多く、いつもの小説とは脱却できた、という感じでしたが、後半はやっぱりいつもの小説っぽく・・・
やっぱ脱却は出来なかったorz
でも結構内部では受けは良かったのでまぁ、オーケイ、と(ぁ

約8日間かけて作ったSS、というかこうなるとLS(Long Story)だね。うん

 

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